＜マリナーズ３−１レッドソックス＞

　マリナーズ佐々木主浩投手が、日本人のプロスポーツ選手として史上最高額となる年俸１０億円選手になった。今オフで３年契約が切れる佐々木とマ軍が、０４年まで契約を延長することで合意。年俸８００万ドル（約１０億４０００万円）、出来高５０万ドル（約６５００万円）の２年契約（３年目は球団オプション）を結んだ。家族の健康上の理由で一時帰国していた佐々木はこの日午前、シアトルへ戻り、レッドソックス戦で９回に登板し８セーブ目を挙げた。

　頭によぎる、さまざまな思いを、白球に込めた。体の疲れ、心の重圧も、マウンドでは忘れた。「今日だけは絶対に抑えてやろうと思いました」、９回表２死一、二塁。ベリテックの打球が力なく舞い上がった瞬間、佐々木はようやく全身の力を抜いた。「技術とか体力じゃない。気持ちだけでした」。１０億円選手となった佐々木が、高校球児のように、シンプルでピュアな言葉を口にした。

　想像を絶する、目まぐるしい３日間だった。２日前の９日未明、緊急帰国を決めた。早朝、マ軍首脳に相談し、許可を得ると、そのまま飛行機に飛び乗った。「妻（香織さん）が体調を崩して、どうしても心配でした。わがままを言ってチームには申し訳なかったですが、許可してもらって本当に感謝してます」。約２４時間の滞在で再渡米し、８時間のフライト中の睡眠はわずか３時間。午前９時すぎの到着後は、自宅で着替えをしただけで、すぐに球場へ向かった。

　プライベートな部分だけでなく、この日はビジネス面でも特別な１日だった。昨年８月以来、代理人のアタナシオ氏とマ軍との間で続いていた契約交渉が、ようやく合意に達した。昨オフ、春季キャンプと再三折衝を続け、一時は条件面で折り合いがつかない時期もあった。「交渉は代理人に任せてましたが、僕にとって第１はマリナーズ。シアトルの町もチームメートも大好き。非常にいい評価をしてもらいましたし、契約できて本当にうれしいです」。筆頭オーナーでもある任天堂山内社長、ピネラ監督の強い勧めもあり、マ軍側は年俸・出来高払いで計１１億円を超える条件を用意し総力を挙げて交渉した。

　２試合とはいえチームを離れた申し訳なさを感じる一方で、マ軍史上最高年俸投手となった責任は、痛いほど感じていた。それ以上に佐々木にとっては、同僚の心遣いがうれしかった。練習中には、イチローが近寄ってきた。「佐々木さん、すごく疲れてるでしょう。だから、今日は僕が絶対に打ちますから」。その言葉通り３安打。だが、結果以上に、イチローの気持ちが、佐々木の心に響いた。

　前日は、日本でテレビ観戦。「ファンのように１球ごとに応援してました」。その２４時間後、無事に８セーブ目を挙げた。「新しい契約もしたし、新たな気持ちで頑張ります」。疲れを忘れたかのような、晴れやかな笑顔が浮かんでいた。

◆佐々木の年俸：日本時代は９９年、イチロー（当時オリックス）とともに日本球界初の５億円に到達した。マリナーズ入り後は０４年までに年俸だけで３７億７０００万円稼ぐことになり、日本時代の１３億７１００万円と合わせると生涯年俸は５１億４１００万円。これまで日本選手の生涯年俸は落合（元日本ハム）の３４億８８０万円が最高だが、佐々木はこれを軽く上回ることになる。

◆大リーグの契約事情：日本ではシーズンオフに行われる契約交渉も、大リーグの場合、今回の佐々木のようにシーズン中に延長交渉が成立することは珍しくない。選手側には翌年以降の立場が保証され、球団側としても他球団に移籍することを阻止できるメリットがある。特に人気選手の場合、オフに資金力のある球団が争奪戦に参加すると、それだけ条件面で高騰が予想されるため、保有球団は事前に契約を締結することが多い。

◆プロスポーツ選手の最高年俸：年俸１０億円以上は野球界以外を含めても日本人で初めて。４月にフランスのサッカー専門誌が中田（パルマ）の年収を９４５万ユーロ（約１０億８７００万円）と掲載したが、この数字は副収入込みで年俸だけでは１０億円に届かない。日本球界では今季の松井（巨人）の６億１０００万円が史上最高。日本人大リーガーでは野茂（ドジャース）が０３年に７００万ドル（約９億１０００万円）で契約しているのが最高。

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