<レッドソックス5−10マリナーズ>
ブルペンでマリナーズ佐々木主浩投手が素早く立ち上がった。5点リードで迎えた9回裏。1死満塁のピンチで、出番が巡ってきた。急いで投球練習をすると走ってマウンドへ向かう。中盤まで接戦も8回表に5点をリードし、出番は消えたかに見えた。だが佐々木は緊張感を切っていなかった。「こんなこともあるさ」。そうつぶやき、ボールを手にした。心の準備は万全だった。
ピンチを職場とする佐々木の投球に遊び球はない。レッドソックスの5番オレアリーへの初球。気迫を込めた91マイル(約145キロ)の速球は一塁へのゴロとなった。佐々木は一塁へベースカバーに走る。ボールはオルルドからギーエンを経て、佐々木のグラブに収まる。併殺でゲームセット。わずか1球でピンチを切り抜けた。リーグトップを独走する15セーブ目をマークし、チームの連敗を2でストップさせた。
「5点リードしていたけど、どうなるか分からないんで気持ちだけは切らないようにしていた。結果的に1球だけど、きっちり終わってよかった。それだけですよ」。1球でのセーブは229セーブを挙げた横浜でも経験がない。9回裏が始まる前、佐々木は右翼後方にあるブルペンを飛び出し右翼イチローのキャッチボールの相手をしていた。万が一のため、少しでも体を動かしておく。豊富な経験からくる工夫があればこそ、初球から生きた球を投げられる。
投球練習を始める前には球審から警告を受けていた。この日の試合は死球や打者付近への投球をめぐり、何度も両軍監督がエキサイトする場面があった。「次に打者付近への投球があれば、退場処分になる」。敵地に漂う不穏な空気も感じた。だが冷静だった。「点差があるから1発に気をつける場面。もともと内角なんか投げないよ」。当然のように、あっさりと1球でケリをつけた。だがその1球にメジャーを代表するクローザーの貫録がにじみ出ていた。
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